インターネットの歴史

軍事目的で始まったインターネット

1950年代、トランジスタの普及に伴いそれまでの「真空管コンピュータ」から、小型で安価な「半導体コンピュータ」へ変遷するようになると、データを他のコンピュータと「共有」したいという欲求が生まれます。電信網は既に張り巡らされていましたが、通信の手段はモールス信号、FAXやテレックスと呼ばれる単語を符号化して音声を介して送るものが中心でした。

特にコンピュータ相互通信の要望が大きかったのは軍隊でした。それぞれの基地や国防中枢と結び、戦略や戦術をスピーディーに共有する必要があったからです。
そんななか、アメリカ国防省の研究局が開発した「ARPANET(アーパネット)」の中枢技術「パケット通信」はデータを小包状に小分けして送り、受信先で組み立てるシステムで、手続きが煩雑になるものの、確実にデータ送信できる画期的な発明でした。

コンピュータネットワーク技術の中でも非常に大きな発明で、やがて軍事目的から、民間へもその技術が伝えられ、世界中のコンピュータがネットワークでつながる先駆けとなります。

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テレタイプ端末
(出典:Wikipedia)

パケット通信とは

従来の電話回線網.png

パケット通信.png

おおよそ128バイト単位の小さなデータのまとまりで、宛先と順番、データが書き込まれた「データの小包」がパケットと呼ばれます。
大量の「データの小包」を、中継するコンピュータ(サーバー)に送ると、宛先を参照して次の中継するコンピュータに送ります。
それを受信先のコンピュータが受け取って順番どおりに組み立てると元々のデータになります。

電話など通話の数だけ回線が必要なアナログ回線と違って、符号化され小分けしたデータを送るので回線の数は最低でも1本で、問題なくデータの送信が出来るようになりました。

TCP/IPプロトコル

プロトコルとは「議定書・約束事」という意味ですが、簡単に言うと鉄道の線路に近いかもしれません。
レールの幅、車輪のサイズに合わせたレールの形状など、共通のルールの上で列車(データ)を走らせるための決め事です。

前述の米国防省が開発した「ARPANET(アーパネット)」のパケット通信をはじめとする技術の活用方法を模索していた、米国国防高等研究計画局 (DARPA)は1974年、TCP(Transmission Control Protocol)というコネクション型通信方法にインターネットでの拡張(IP)を行った「TCP/IP」プロトコルを発表します。

通信前に相手先がいるかどうかを確約してから通信を開始する1対1での対話型通信方法、足りないデータを再送信するよう要求する、あるいは欠損したデータを前後のパケットから可能な限り復元・訂正するプロトコルはコンピュータネットワークに革命をもたらします。

パケットを開いても内容物を判断することが難しいため、ある程度の通信の安全性が保たれるのも特徴です。
また、通信経路は必ずしも同じである必要はなく、
・前半送ったデータは「A経路」
・後半送ったデータは混雑していない「B経路」
など、最適な通信環境を選びながらネットワークを縦横無尽に利用して無駄のない送信が可能です。

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1974年時点のARPANETの構成
(出典:Wikipedia)

WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)

TCP/IPで安全で確実なデータ通信が可能になりましたが、それを閲覧するソフトウェアとルールが整っておらず、まだまだ一般のユーザーが手軽に始められる環境ではありませんでした。

1989年、欧州原子核研究機構(CERN)に席を置く「ティム・バーナーズ=リー」は様々なドキュメントを共有するシステムの構築を模索していました。

それぞれのドキュメントを誰でも標準的に閲覧出来る「ブラウザ」の開発。HTML(ハイパー・テキスト・マークアップ・ランゲージ)と呼ばれる標準化ドキュメントのフォーマットの策定。書類上をクリック1つで接続できる「ハイパーリンク」などの開発を行い、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)と言う名称で提案書を発表します。

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バーナーズ=リーが CERN で使用したNeXTcube。初のWebサーバ
(出典:Wikipedia)

最初は文字の大きさや体裁の調整とリンクしかできなかったHTMLですが、次第に画像の埋め込み、背景色や文字の装飾の充実、現在ではYoutubeを代表とするダウンロードしながら再生可能な動画のストリーミング配信など、様々な機能を充実して現在に至ります。

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我が国のブロードバンド契約者の総トラフィック(出典:総務省)

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IPトラフィックの推移(出典:総務省)

軍事の概念を変えたインターネット

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SpaceX CEOイーロン・マスク氏
(出典:Wikipedia)

スターリンク衛星
スターリンク衛星
(出典:Wikipedia)

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スターリンクアンテナ
(出典:Starlink)

2022年2月にロシアがウクライナ侵攻し、通信インフラの攻撃によってウクライナのインターネット網は壊滅的な打撃を受けました。

ウクライナの副首相「ミハイロ・フェドロフ氏」がTwitterを通して、SpaceXのCEOのイーロン・マスク氏に衛星インターネットサービス「Starlink」のウクライナでの提供を呼びかけたところ、マスク氏が直ぐに呼応。

わずか10時間後には実際にウクライナで通信することが可能になりました。

電源と小さなアンテナさえあればインターネットに接続できるため、今までは国や軍隊にとって都合のいい、いわゆる「プロパガンダ」によって糊塗されてきた一方的な情報が、SNSを駆使した市民が実際の現地の状況をダイレクトに世界へ伝えることが出来るようになりました。

また、双方の国もハッカーによる相手国の情報機関の遮断や漏洩を狙っており、「情報戦争」「SNS戦争」などと呼ばれ、今までの戦争や紛争の概念を大きく変えてしまう出来事となりました。

コンピュータの歴史